賃貸の家賃値上げ通知が来たとき|普通借家と定期借家で変わる確認手順

賃貸の更新が近づいたころに、管理会社や大家さんから「来月から家賃を上げます」という通知が届いたら、どうしたらよいでしょうか。
まず確認したいのは、「いま住んでいる部屋の契約が、普通借家か定期借家か」と「契約書の賃料の条項」の2つです。 この2つで、使える手段も、断れるかどうかも変わります。
この記事では、家賃の値上げを告げられたときの確認の順番を、借地借家法と国土交通省の資料にもとづいて整理します。
筆者(KENTA)は準大手ゼネコンの施工管理をしている会社員で、自分の賃貸契約の種類や、値上げ通知を受けた経験については、この記事には書いていません。法律と公的資料から、確認の順番を整理した内容です。個別の事案で値上げが認められるか、いくらが適正かの判断はしません。実際の事案は、契約書の内容をふまえて、消費生活センター、自治体の相談窓口、弁護士などに確認してください。
結論:先に5つのことを確認する
- 契約が「普通借家」か「定期借家」かを、契約書で確認する。 定期借家は、契約書に「更新がない」旨があり、別の書面で事前説明を受けているはず
- 契約書の賃料の条項(賃料改定の特約・「一定期間は増額しない」特約)を読む。 特約の内容で、話の進め方が変わる
- 通知書に、値上げ後の金額・適用開始の時期・理由が書かれているかを見る。 金額だけで理由がない場合は、書面で理由を聞いてよい
- 普通借家では、貸主の提示した金額に、そのまま従う義務があるとは限らない。 ただし、無視したり、家賃を払わなかったりしてはいけない。協議、調停、訴訟で、適正な額が決まる流れがある
- 「定期借家への切り替え」は、借主が同意しないと成立しない。 同意する前に、更新がなくなることの意味を理解する
以下、順番に説明します。
STEP1:契約が「普通借家」か「定期借家」かを確認する
2つの違い
| 普通借家 | 定期借家 | |
|---|---|---|
| 更新 | 期間が終わっても、原則として契約が更新される(貸主から更新を拒むには、正当な事由が必要) | 更新がない。 期間が満了すると確定的に終了する |
| 貸主から契約を終わらせる条件 | 期間満了の1年前〜6か月前に更新しない旨を通知し、かつ正当事由が必要(借地借家法第26条・第28条) | 期間満了の1年前〜6か月前に終了の通知が必要(期間1年以上の場合、第38条第4項)。正当事由は不要 |
| 契約の方法 | 口頭でも成立する | 書面で契約し、契約書とは別に、更新がないことを記した書面を渡して説明する必要がある(第38条第1項・第2項) |
| 借主からの中途解約 | 契約書の定めによる | 居住用で床面積200平方メートル未満なら、転勤・療養・親族の介護などのやむを得ない事情があるとき、解約の申入れができる(第38条第5項) |
見分け方は、契約書の表題と、「契約の更新がない」旨の記載です。国土交通省は、定期借家の契約書の雛形として「定期賃貸住宅標準契約書」を示しています。事前説明の書面を渡されていない場合、「更新がない」旨の定めは無効になると、第38条第3項が定めています。この場合は、普通借家として扱われます。
自分の契約がどちらか分からないときは、契約書の控えを確認し、それでも分からなければ、管理会社に書面で聞くのが確実です。
STEP2:契約書の「賃料」の条項を読む
値上げの話の前に、契約書の賃料に関する条項を確認します。国土交通省の標準契約書(賃貸住宅標準契約書)には、次のような賃料改定の規定の例があります。
次の各号の一に該当する場合には、協議の上、賃料を改定することができる。
一 土地又は建物に対する租税その他の負担の増減により賃料が不相当となった場合
二 土地又は建物の価格の上昇又は低下その他の経済事情の変動により賃料が不相当となった場合
三 近傍同種の建物の賃料に比較して賃料が不相当となった場合
(国土交通省「賃貸住宅標準契約書(平成30年3月版)」の例)
確認するポイントは次の3つです。
| 確認すること | 見方 |
|---|---|
| 賃料を改定できる条件が書かれているか | 上の例のように「協議の上」とあれば、一方的に決める内容ではない |
| 「一定期間は賃料を増額しない」という特約があるか | ある場合、その期間は、借地借家法の定めでも増額の請求ができない(第32条第1項ただし書) |
| 「貸主が一方的に賃料を改定できる」という内容が書かれていないか | 国土交通省の資料は、賃料改定の特約の中には一方的に値上げをする内容のものもあるので、契約前によく読むことが望ましいとしている |
なお、国土交通省の資料によると、特約による賃料の改定額が、時価相場から見て不相当とまではいえない増額の場合は、借主は応じる必要があるとされています。契約書に何が書かれているかで、結論が変わる点に注意してください。
STEP3:通知書の中身を確認する
値上げの通知を受け取ったら、次の点をメモしておきます。
- 通知の日付と、受け取った日
- 値上げ後の家賃(共益費・管理費を含むか)
- いつの分から上がるのか
- 値上げの理由(周辺相場、固定資産税などの負担増、建物の改修、物価など)
- 通知の方法(書面、メール、電話のみ)
理由や根拠が書かれていないときは、書面(メールなど記録に残る形)で、理由と根拠を聞いておくと、あとで話し合うときに役立ちます。電話だけで済ませると、「言った・言わない」になりやすいためです。
普通借家で値上げを告げられたとき
借地借家法第32条の考え方
借地借家法第32条第1項は、建物の借賃(家賃)が、次のいずれかの理由で不相当になったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって、家賃の増額または減額を請求できるとしています。
- 土地や建物にかかる税などの負担の増減
- 土地や建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動
- 近くの同じような建物の家賃と比べて不相当になった
つまり、貸主は、条件を満たせば、増額を請求できます。借主も、減額を請求できます。 ただし、「一定期間は増額しない」という特約があれば、その定めに従います。
協議が調わないとき:払い方に注意
ここが、一番間違えやすいところです。第32条第2項は、増額について協議が調わないときについて、次のように定めています。
- 請求を受けた借主は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、「相当と認める額」の家賃を支払えばよい
- ただし、裁判が確定した結果、すでに支払った額に不足があるときは、その不足額に、年1割の割合による利息を付けて支払わなければならない
国土交通省の相談対応事例集は、この点を次のように整理しています。
- 貸主が告げた値上げ額には、そのままでは拘束力はない。まずは協議をし、話し合いでまとまらなければ、調停や訴訟で決まった適正な家賃を払うことになる
- 協議が調わないときは、まず裁判所に調停を申し立てる必要がある(調停前置。民事調停法第24条の2第1項)
- 争っている間でも、借主は、相当と認める額を支払う必要がある。全く家賃を支払わないと、滞納として契約を解除されるおそれがある
- 貸主が受け取らない場合は、法務局(供託所)に家賃を供託しておく必要がある
ここから、次の2つが整理できます(筆者の整理)。
- 「納得できないから払わない」は、避けるべき。払う額を自分で「相当」と考えて、払い続ける形にする
- あとで増額が正当と確定し、払った額が足りなかった場合は、不足額に年1割の利息がつく。「相当と認める額」を決めるときは、この利息のことも頭に入れておく
利息のイメージ(筆者の計算)
月5,000円の増額を請求された場合で、増額が全面的に正当とされ、裁判が確定するまでに24か月かかったとします(この数字は仮定)。
- 不足額の合計:5,000円 × 24か月 = 12万円
- 年1割の利息:各月の不足額が、その月の支払期から確定まで利息を生むとして計算すると、約1万1,500円(5,000円 × 10% ÷ 12 × (23 + 22 + … + 0)か月の合計 ≒ 11,500円)
実際には、裁判で認められる額、期間、支払日は個別の事情で変わります。金額は目安であり、結果を予測するものではありません。
順番に整理
| 順番 | することの例 |
|---|---|
| ① | 契約書の賃料条項と、通知書の中身を確認する |
| ② | 理由と根拠(相場、税の負担など)を、書面で聞く |
| ③ | 協議する。近くの同じような物件の家賃など、自分でも調べて、条件を示す |
| ④ | 合意できれば、合意内容を書面にする(金額、いつから) |
| ⑤ | 合意できないときは、「相当と認める額」の家賃を払い続ける。貸主が受け取らないときは、供託を検討する |
| ⑥ | 調停(簡易裁判所)。それでもまとまらなければ、訴訟で決まる |
⑤⑥の段階は、専門家(弁護士、消費生活センター、自治体の相談窓口など)に早めに相談するのが安全です。
定期借家で値上げを告げられたとき
定期借家には、普通借家と違う点があります。借地借家法第38条第7項は、定期借家で、借賃の改定に係る特約がある場合は、第32条(借賃増減請求)を適用しないと定めています。
整理すると、次のようになります。
- 契約書に賃料の改定の特約がある場合(例:「2年目から家賃を〇〇円にする」「消費者物価指数に応じて改定する」):その特約に従う。借地借家法第32条の増減請求は使えない
- 賃料の改定に関する特約がない場合:第32条の対象になる、という整理(条文の反対の読み方。個別の契約は専門家に確認)
定期借家では、そもそも契約期間が終わったら更新がないので、期間の途中で値上げの話が出るより、期間満了後の「再契約」のときに、新しい家賃を提示される場面が多いと考えられます。再契約は、貸主と借主が合意して、新しい契約を結ぶ形になります。条件に合意できなければ、契約は期間満了で終わります。
「定期借家に変えませんか」と言われたとき
家賃の値上げの話と一緒に、普通借家から定期借家への切り替えを提案されることがあります。
| 契約を結んだ時期・種類 | 切り替えの扱い |
|---|---|
| 平成12年(2000年)3月1日より前に結んだ居住用の普通借家契約 | 国土交通省は、当分の間、合意しても定期借家契約を結ぶことはできないとしている。合意解除して定期借家契約を結んだとしても、従来の「正当事由による解約制限のある」借家契約となる(借地借家法の附則、国土交通省Q&A) |
| 平成12年3月1日以後に結んだ契約 | 法律上、切り替えができないとはされていない。ただし、新しい契約なので、借主の同意が必要 |
切り替えに同意すると、更新がなくなるため、期間が終わったあとも住み続けるには、貸主の再契約の同意が要ります。普通借家では、貸主が更新を拒むには正当な事由が必要でしたが、定期借家ではそれが要りません。
だから、提案を受けたときは、次の点を確認してください。
- 切り替えの代わりに、家賃を下げる・値上げしないといった条件が示されているか
- 契約期間は何年か。期間満了後に、再契約が約束されているか(書面にあるか)
- 事前説明の書面を、契約書とは別に渡されたか
その場で署名・押印せず、持ち帰って確認することをおすすめします。同意しない場合に、普通借家の契約がそのまま続くかどうかは、契約の時期や内容で変わるため、不安なときは専門家に確認してください。
値上げが家計に与える影響
家賃が上がる額は、年額にすると、意外と大きくなります。
| 値上げ額(月) | 年額 | 5年間 |
|---|---|---|
| 3,000円 | 3万6,000円 | 18万円 |
| 5,000円 | 6万円 | 30万円 |
| 1万円 | 12万円 | 60万円 |
(筆者計算。更新料、共益費の変更などは含まない)
値上げを受け入れる場合でも、引っ越した場合の費用(初期費用、引っ越し代、退去時の精算)と比べて判断します。費用の目安は、賃貸契約時の費用の記事を参考にしてください。
よくある質問
値上げを告げられたら、断れますか?
普通借家では、貸主が告げた金額に、そのままでは拘束力はありません。ただし、第32条により、貸主は条件を満たせば増額を請求でき、最終的な金額は、協議、調停、訴訟で決まります。断る場合も、無視はせず、協議の形にして記録に残してください。
更新のたびに値上げされますか?
契約書の賃料の条項によります。「一定期間は増額しない」という特約があれば、その期間は増額できません。特約がなくても、貸主が増額を請求できるのは、第32条の理由(税の負担、経済事情の変動、近くの家賃との比較)で家賃が不相当になったときです。
家賃を払わないで、様子を見てもいいですか?
おすすめしません。全く払わないと、滞納として契約を解除されるおそれがあります。「相当と認める額」を払い続けるのが原則です。貸主が受け取らないときは、供託の方法があります。
値上げに応じなければ、更新を断られますか?
普通借家では、貸主が更新を拒むには、期間満了の1年前から6か月前までに通知をすることと、正当な事由が必要です(第26条・第28条)。値上げに応じないことだけが、正当な事由になるとは、条文からは読み取れません。個別のケースは専門家に確認してください。
UR賃貸や公営住宅も同じですか?
UR賃貸や公営住宅は、別の制度や契約のルールがあります。この記事の整理は、民間の賃貸住宅を想定しています。
相談先はどこですか?
国土交通省の事例集は、賃貸住宅のトラブルの相談先として、地方公共団体の消費生活センターや相談窓口、法テラス、簡易裁判所の手続案内などを挙げています。まず、住んでいる自治体の窓口に聞くのが入りやすいと思います。
確認した一次情報
- 国土交通省「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)」(令和4年3月):家賃の値上げ(賃料増額請求、調停前置、供託、利息)、借地借家法の条文(第26条〜第28条、第32条、第38条、附則)
- 国土交通省「定期建物賃貸借 Q&A」:定期借家の要件、切り替えの制限(平成12年3月1日前の契約)
- 国土交通省「賃貸住宅標準契約書」:賃料改定の規定の例
- 裁判所「賃料増減額の調停」の案内(調停申立書の記載例)
詳細は sources.md に記載しています(草案段階。公開時は本文末尾に出典を残す)。
おわりに
家賃の値上げを告げられたとき、筆者がまず確認したいのは、金額ではなく、契約の種類と、契約書の賃料の条項です。そこを確認しないまま、電話で了承したり、逆に家賃を払わなかったりすると、あとで困るからです。
払う額を決めるときは、近くの同じような物件の家賃と比べて、自分の考えを書面で示す。それでもまとまらなければ、調停という手続きがある。この順番を知っておくだけでも、慌てずに済むと思います。
この記事は一般的な情報で、個別の事案の法的な判断ではありません。実際の値上げや契約の切り替えについては、契約書の内容をふまえて、自治体の相談窓口や弁護士などの専門家に確認してください。